乳腺炎にならないために~予防と対策~
乳腺炎は授乳中の女性でしばしば遭遇する疾患です。
通常、分娩3週間以内や急激な卒乳に引き続いて起こることが多いようです。
頻度は産後3ヵ月までに約10%で全授乳期間を通し,3~4人に1人は罹患します。
乳汁を適切に乳房から排出できないことが原因となって起こることが多いです。
乳腺炎の症状を表1に示します。
表1:乳腺炎の症状
発熱>38℃
悪寒
心拍数増加
インフルエンザ様の体の痛み
乳腺炎に罹患した部位の痛み・腫脹
発赤,圧痛,熱をもった領域
腋窩に向かう赤い線(リンパ管に沿って)
乳腺炎にならないようにするのは具体的にどうすればよいのでしょうか。
表2に原因を示しました。
青字で示したものは乳汁をしっかりと出し切れないことが関係しています。
たとえば、“児の口腔内に問題がある”ために、
乳汁が外に出し切れないことも原因となるのです。
“衣類の締め付けと睡眠中の体位”はある乳管が外からの圧迫により、
閉塞してしまい乳汁の流れが悪くなることが関係しています。
もちろん、傷があったり、糖尿病や栄養失調にともない抵抗力が低下したり、
ということも感染の原因になります
表2
乳汁うっ滞
児の口腔内に問題がある
授乳時間と授乳回数の制限
おしゃぶりと人工乳首の使用
母子分離
フルタイムへの就職・復職,オーバーワーク
不適切な吸着
衣類の締め付けと睡眠中の体位
乳管閉塞や白斑の閉塞が解決できなかった場合
乳頭亀裂,損傷
貧血,貧しい食事のよる抵抗力の低下
運動(上肢を激しく動かす運動)
ストレス,睡眠不足,疲労
母親の合併症(糖尿病)
乳頭クリーム
乳腺炎は①非感染性乳腺炎と②感染性乳腺炎に分類されますが、
外観や臨床症状だけでは両者を鑑別することは難しいです。
感染性乳腺炎では乳児の口腔粘膜,
鼻咽腔の常在菌や乳房表皮の常在菌(黄色ブドウ球菌(MRSA含む),表皮ブドウ球菌,レンサ球菌,腸球菌)などがあげられます。
効果的に乳汁が排出されていれば,乳管から乳汁は自然な方向に流れるため,
細菌は外に流れ出ていきます。
しかし,乳汁排出が不適切であると,乳汁が乳腺腔内に残り,
細菌増殖に好ましい環境ができるのです。
腸内フローラが美容との関係もあって注目されていますが、乳腺にもフローラがあります。
よい細菌がついていると悪い菌が入りにくくなって乳腺炎予防にもつながると期待されています。
乳房の緊満や乳管閉塞でも痛みや不快感を訴えることはあります。
表3に従って診断を考えるとよいでしょう。
表3 乳房の緊満,乳管閉塞,乳腺炎の鑑別
乳管閉塞や非感染性乳腺炎ならば,適切に対処することで8~24時間以内に症状がおさまります。
この期間に改善を認めない場合は,抱き方や含ませ方,授乳回数など改めて見直すことが必要です。
対策の原則は,罹患した部位から効果的に乳汁を排出することです。
授乳前に乳房を温めたり,授乳中にマッサージしたりすると射乳反射が起きやすくなります。
両側の乳房から授乳してもらいます。
もし、このとき吸着が困難なほどの痛みがなければ患側から授乳してもらうとよいでしょう。
母親が心地よいと感じるのであれば,授乳と授乳の間に冷たい圧迫を加えるのもよいでしょう。